アイドルグループ・乃木坂46の23rdシングル「Sing Out!」のカップリング曲で齋藤飛鳥と白石麻衣のユニット曲「のような存在」のミュージックビデオが4月15日、公開された。
何と男装とショートヘアの変身振り
ミュージックビデオ(MV)は、今年3月下旬に千葉・九十九里浜で撮影された。
役柄そしては、齋藤が外に出ることができない内向的な男の子、そして白石がそれに寄り添う家庭教師を演じる。斎藤が外に出られない理由をメンタルなものととらえ、齋藤の心を開いて家から連れ出そうと試みてからの四苦八苦、というストーリー仕立てとなっている。
齋藤はショートカットのウィッグで男装にトライしている。はやくもSNSでは「ショートカット似合う」「イケメンすぎる」「最強ユニットMV」「飛鳥とまいやんやばすぎる!!」とファンを興奮させている。その興奮の底辺にあるものとは、トランスジェンダー的魅力につきるといえるだろう。
トランスジェンダーの魅力が底辺にある
今回の企画は、何気に男装がプチブームであるのを狙ったものでもあるだろう。
男装とは若干違うが、かつて一生を風靡した「ベルサイユの薔薇」は、宝塚でもロングランで人気を誇る。
古くは西洋においては、ウィリアム・シェイクスピアの『十二夜』におけるヴァイオラや『お気に召すまま』のロザリンド、『ヴェニスの商人』のポーシャなどが代表的にあげられる。
当時の近代のロンドンの商業演劇界にはプロの女優がいなかったため、少年が女役を演じ、劇中でその女役がさらに男装して男性のふりをするということがあった。
日本においては宝塚とは対照的に歌舞伎があるが、ここでは女性はすべて女形の男性の役者が女性を演じる。
永遠なる魅惑的な物語のスタイル
男女の入れ替えが、どちらにせよ、男性が女性、女性が男性に豹変し、心を開いてゆくという物語のパターンは、いつの時代においても魅力的な風情をかもし出し、役者や表現者の可能性を広げてゆく。
代表的なトランスジェンダー的魅力で活躍した人たちを想起してみます。
例えば、美輪 明宏、おすぎとピーコ、はるな愛、海外アーティストではデビッド・ボウイ、さらに昨年から最ブレイクしているロックバンド・クイーンのフレディー・マーキュリーもそうですね。
フランスの歴史においては、ジャンヌ・ダルクが、男装的なキャラクターの象徴としてよく引用されます。
特にロック界においては、トランスジェンダー的な振る舞いで人気を得ていたのが、「愛し合ってるかい」の忌野清志郎(RCさくせしょん)も立ち振る舞いやヘアスタイルもある種中世的ななものでした。
すべては変身願望と自由と勇気の渇望
「のような存在」の話題に戻れば、MVにおける2人のコミュニケーションはアドリブ的な演技が多く見受けられます。特にラストで白石が齋藤にする注目シーンもアドリブ。窓に落書きをするシーンでは、2人が“海の生き物”をテーマに描いている。
つまり、底辺にあるテーマは「自由と勇気」、それを支えるのが変身であり、男装に変身した斎藤、丸めがねの白石、弱い男を女性が演じ、たよれる男性的な女性に導かれる、という構図になっている。
どちらにせよ、本来の自分自身を投げ捨てた役柄と環境設定であるために、今まで考えられなかったような自由なアドリブが演技が内面から飛び出し、その奔放さが全体のストーリーの魅力となっている。
今後がますます楽しみだ。
監督は乃木坂46の「空扉」「トキトキメキメキ」「失恋お掃除人」など多くの作品を手がけている映像ディレクター伊藤衆人氏が担当。同MVは初回仕様限定盤(CD+Blu-ray)Type-Aに収録される。